ところで、今回の利下げ措置で二つのポイントが確認されたのは有意義だったと思う。
一つ目のポイントは、WSJ紙上でも議論されてきたバーナンキ議長とグリーンスパン前議長とのマーケットへの対処方法の違い・類似性について確認がとれたこと。いわゆるグリーンスパン・プットの復活についてだ。かねてグリーンスパン前議長の時代には何かしらの変調が起こって資本市場が機能不全に陥った場合には、必ずFEDが緊急避難的に流動性を供給する或いはFF金利を引き下げることによってマーケットの一方的な下落を食い止めてきた。この意味で、これまでグリーンスパン・プットの存在が認識されていたわけだけれど、対照的に、バーナンキ議長は先月のNY株式市場のメルトダウンを前にしてdiscount rateを引き下げるのみでFF金利を据え置いた。結果、前述のWSJの記事にあるように、前議長との間の違いが際立ってしまった。しかし、9月のFRBで一気に50bp FF金利を引き下げて金融システムの混乱を沈静化する姿勢を鮮明にしたため、逆に金融システム自体を守るという点では二人の考え方が一致していることが確認されたといえるだろう(9月に入ってからの重大な金融システム危機については二つ目のポイントを参照)。一方で、景気および金融システムへ悪影響が出ないと考える限り、FEDは動かない事も同様に確認されたといえる。個人的にはバーナンキ議長への信認が更に高まったのだけれど、他の市場参加者の人はどうだったんだろう?その後のマーケットの動きをみると、同意見の人が多いような印象を受ける。
ちなみに、グリーンスパン・プットの発動タイミングについては、メモを参照のこと。
二つ目のポイントとしては、短期金融市場が思いもよらぬ原因で機能不全(流動性クランチ・信用収縮)に陥り、証券化時代の市場の不備が露呈した(確認がとれた)こと。
まずご存知の通り、短期資金調達手段は概ね次のように分類される:
- Repo Market, Stock Loan Market(主に証券会社のファンディングに使われる)
- 無担・有担コールマーケット or O/N Libor Market(インターバンク市場): 米国市場ではFF金利に支配されるが、日本では日銀の裏庭にいる短資会社に支配されている
- 銀行借入(Libor Market, インターバンク市場)
- CP市場(短期クレジット市場(無担))
- ABCP市場(短期クレジット市場(有担))
こうした現象はcounterparty riskが顕在化したLTCM破綻時やS&L危機或いは日本の不良債権問題とも本質的に異なり、証券化時代に金融システムの抱える新たなリスクの火種といえる。今後業界がこの問題にどのように対処していくかウォッチングしていきたい。私の印象としては、本来信用創造は景気と正の相関を持っていて当然ではあるものの(景気悪化=>資金需要減退=>貸出減少, vice versa)、間接金融の作り出す相関に比べ、直接金融の方が相関が高い或いは振れが大きいといえそうで、このあたりの制御を問題意識とした更なる研究が必要なんだろうな(それともacademicの世界ではもうあるのかしら?)。
ちなみに、ECBが今回利下げしなかった理由も、欧州では個別行の損失からくる旧来型の信用収縮(英ノーザンロックが好例)に止まり、金融システム危機にまで発展しなかったことが一因であると考えると納得がいく。
市場へのインプリケーションとしては、グリーンスパン・プットの復活が明確な形で確認されたことはプラス。一方新たな金融システム上のリスクが確認されたことはマイナスで、調整局面は長引きそう。対策が講じられるまでには更に時間が掛かる見通し。もちろん市場はブル・スティープで反応。同時にグリーンスパンの謎も解けそうですな。
追記(10/10/07):ようやく短期市場の混乱も治まってきそう。それにしても8/10時点でuk base rateとO/N LIBORのスプレッドが72bpにも達しているにも関わらず、BBA O/N repo rateとのスプレッドは35bpに留まっているのは面白い。それと英国の短期金融市場の方が早くから混乱し始めていた事が見て取れる。ちなみに、店頭ではこの混乱に先んじてLibor fundingをBase rate fundingへ切り替えるswapが観測されていた。