サブプライム、それから派生したHFの利回りを上げるために大量発行されたCDOエクイティーの無価値化→そこからくる投資適格債券のジャンク化→それらを複合した、特にMBS,USTがレポに出ていることからくる信用収縮→クレジットマーケットの崩壊・・・・
そこで、本日のお題:「「クレジット市場発の信用収縮はあり得るか?」
まずは、信用収縮って一般にどのように理解されているのだろうか。辞書(goo辞書)を引いてみると、
【信用収縮】
金融市場で取引が停滞したり,資金供給が細る現象。金融機関が不良債権処理や自己資本比率引上げなどから,貸付金の回収や貸出しを控えることで引き起こされる現象。
とある。このような状況は、一般に金融引き締め局面、或いは景気後退局面において経済ファンダメンタルズと密接に関連した上で起こるのが常であろう。また、過去の経験から一部のレバレッジ・ファンドの経営危機・破綻に伴う金融システム自体の機能不全と関連付けられることもある(LTCM, Amaranthのデリバティブ取引, 山一證券の無担保コール取引)。
では、本日のお題「クレジット市場発の信用収縮はあり得るか」を考えてみよう。結論は否である。
何故か。その説明に入る前に、いろいろな誤解を解くためにも、過去の事例の整理とクレジット市場の基本を整理しておこう。
1. レバレッジ・ファンドの経営危機・破綻に伴う金融システム自体の機能不全からくる信用収縮
この可能性は現在の金融市場ではかなり低くなっている。LTCMの破綻時には、デリバティブ取引などに伴う信用リスクが正確に計測されていなかったこともあり、損害はファンドそのものだけでなく取引のある金融機関全てに波及する事となった。かつほぼ全ての金融機関がLTCMと取引を行っていた為、その損害は甚大なものとなりFEDがシステマチック・リスクに対処するために緊急対策を打った。しかし、同様に巨大なコモディティ・ポジションを保有し、危険な賭けをしていたAmaranthの破綻時(06年秋)には取引金融機関が損害を蒙ったという話は聞かないし、むしろ報道の焦点はこのトレーダーの経歴などに当てられていてゴシップ記事のようであった。ただ、実際にはny heating oil futuresのカーブがAmaranthの破綻後に急激に変化するほどのポジションが積み上がっており、OTC derivativeでもかなりのポジションを保有していて、うちでも担保を通して巨大なエクスポージャーのマネージを余儀なくされていた。
この事例は、一つのファンドの破綻はもはやシステマチック・リスク(信用収縮)を引き起こすものではなく、金融システムはこの問題に対する対処法(信用リスクのマネジメント)を既に実践済みであることを示唆している。もちろん技術レベルの低いところは未だにこの類のリスクにさらされてますが。。。(;´Д`)
2. クレジット市場と株式市場の関連
Merton Modelによれば、クレジットの買い持ちはAsset Value(B/Sの左側)のdeep out of the money putの売り持ちと同等である。また、株はAsset Valueのdeep out of the money callの買い持ちと同等である。すなわち、クレジットはAsset Valueのオプションであり、それ自体の変動によって株自体へ影響を与えることはない。重要なのは、Asset Valueであって、所謂企業業績のファンダメンタルズである。これは、モデルに関係なく資本構成を考えれば当たり前の結論であろう。ちなみに、同じクレジット商品ではあるものの、MBS(Mortgage Backed Securities)と一般債とではリスクの源泉が異なることに注意しよう。一般債は、上で説明したとおり、Asset Valueに関するout of the money putの売り持ちが利益の源泉であるわけだが、MBSは早期償還リスク(このリスクはほぼ金利の変動に連動する。すなわち金利が下がれば借り換えによって早期償還が増加し、金利が上がれば早期償還も減る)に関するout of the money strangleの売り持ち(+個々人のAsset Valueに関するdeep out of the money putの売り持ち<<0)が利益の源泉となる。
従って、クレジット市場が動揺したところで、経済ファンダメンタルズの主要な部分である企業業績が堅調な現在の状況下(株価には上昇圧力)では、ファンダメンタルズの悪化とそれに伴う信用収縮を予想する向きは少数派であろう。もちろん、サブプライム問題が経済ファンダメンタルズそのものへ影響する可能性もあるだろうが、FRBも含めてその可能性自体は低いと見られている(利下げ観測の後退)。また、幾つかのファンドの経営危機・破綻が明らかになってきているが、上記1.で説明したようにこの問題が過去の事例と同様にシステマチック・リスク(信用収縮)を引き起こす可能性は極めて低い。むしろ、担保の受け渡しを通して、マーケットは適切にそのリスクを調整していると見るのが正しい。すなわち、本日のお題に対する答えは「否」である。
**LTCMのポジションについては下記の論文を参照のこと:
Philippe Jorin (2000), "Risk Management Lessons from Long-Term Capital Management", European Financial Management 6 (September 2000), pp. 277-300
Eric Benhamou, "Lambda (options leverage)", FICC, Goldman Sachs
0 件のコメント:
コメントを投稿