まずはmortgage loan marketの構造変化について説明しよう。ノートをめくると4/17付けで、下記の書き込みがある:
(某格付け機関とのカンファレンスコール)
マクロ経済への影響: 1) 2008, 2009に掛けて住宅投資は減少の見通し、2) 消費動向はニュートラルを見込む。Housing wealth creationがnon-housing wealth creationをoff-setする見込み(housing:1.2 tln 04,05 => 7.7bn 06; non-housing: 2.7 tln 04,05 => 3.2 tln 06)。
間接的な影響: プライム・サブプライム住宅ローンの組成額と失業率との間に見られたリンクが2001年頃から変化し始めている。これは、これまで格付け期間が拠り所としてきた過去に実行された住宅ローンのトレンドから外れることを意味しており、rating methodologyを変える必要があるかもしれない。但し、これが起こるようであれば、金融市場全体への影響は避けられないであろう。住宅ローン残高はGDP比で45%に達し、ここ数年の増加幅は年7%程度である。
このノートが意味するところは、これまで数十年に渡って安定してきたmortgage loan marketの構造変化であり、ノートにある通りその影響は大きいであろうことが容易に想像される。ただ、クオンツの立場から考えると、その大きさがよりはっきりする。MBSのプライシングモデルに関わったことのある人であれば直ぐに思い当たる事であるが、そのモデルはローンの返済・破綻動向に関する過去のトレンドに大きく依存している。従って、そのトレンドが変わるということは、モデルそのものの変更を余儀なくされる事を意味し、もちろんプライスへの影響は避けられない。しかも、この類のモデルは過去数年から数十年分のデータを注意深く分析して初めてできるものであり、その再構築には時間と共に大量のローンデータを必要とする。もし、格付け機関の言うとおりに2001年頃からのトレンド変化であるならば、十分なデータが得られないかもしれないし、得られたとしても検証の難しい作業である。
すなわち、2001年以降のビンテージの米国MBSは価格が良くわからないという状況に陥ってしまうのである。仮に年7%程度で住宅ローン残高が増加していると仮定すると、2001年から実行されたローン額は、ほぼGDPの20%に相当する(~ 2兆5000億ドル)ド━(゜Д゜)━ン!!
実際、価格がわからない状況になってしまった為、サブプライム問題が表面化してからというものサブプライム絡みの証券化商品のbidは引いてしまっている(価格がわからないので引くしかない、でも無価値になってしまったわけでもない)。更に、Moody's, S&Pがこれら商品の格付けの変更を認めてしまった(=構造変化を認めてしまった。ちなみにこの論点については、まだ詳しい格付けクライテリアを読み込めてないので、要確認。追記:出ましたね。やはりかなり変わっていて、変更後のサブプライム債権のデフォルト率はほぼ2倍ということです。でもこれでバリュエーションも落ち着くな。)為、mark downせざるを得なくなってしまった。もちろん、この類の商品の第一人者であり、こうした時にこそマーケットメイクをすべきベアスターンズ自体が危機に陥ってしまって、その機能を十分果たせていないのがさらに状況をややこしくしているわけで。。。ブローカーが自らもリスクを取るというビジネスモデルの限界がこの辺りに見え隠れするわけですな。。。(;´Д`)
一方で、サブプライム絡みの商品(RMBS)はマーケットで主に3つの用途の為に使われていた: 1) 世界的な金余りの中で比較的高いリターンをもたらす資産のうちのひとつ、2) CDOを通したレバレッジポジション(実質的には、RMBSを担保にその他のクレジットにレバレッジ投資をするポジション)の構築、3) レポマーケットを通したレバレッジポジションの構築。
このうち、まず3)によって積み上げられたポジションが、上記で説明したMBS市場の機能不全が起きると共に、担保取引を通して急速に巻き戻される結果となり、日々の資金調達の面で流動性調整が起こった(但し、表面上はベアスターンズをはじめ、幾つかのファンドの破綻を引き起こした今回の流動性調整は、信用リスクの伝播から発生するシステマチック・リスク(信用収縮)を未然に防いでいるという意味で健全な調整であると考えられる)。次に2)によって積み上げられたポジションの巻き戻しを通して、クレジット市場全体のスプレッド・ワイドニングが引き起こされた。そして最後に行き場所を失ったリスクマネーが新たな落ち着きどころを求めて、大規模なrisk re-allocationを起こしたと見るべきであろう。実際、ここ数年は逆の動き1)->2)->3)によってポジションが積み上がってきていたわけで、なんとも自業自得のような気が。。。ヽ(`Д´)ノウワァァァン
ここまで分析してみると、だいぶマーケットの動きが整合的に理解できるのではないだろうか。それでは、次の問題として、市場へのインプリケーションはどうなるのだろうか?
まずは、単純に米国モーゲージビジネスはファンダメンタルズが悪化しよう。したがって、株・債券(MBS)に関わらずこのセクターは弱含む。一方で、このセクター以外に目を向けるとファンダメンタルズは(景気変動に影響がない限り)変わっていないわけだから、一時的な調整に終わる可能性が高い。すなわちFRBが利下げしない限り、強気で良いだろう。問題は金融セクターである。
金融機関への波及については、RMBSのポジションと流動性リスクの2方面から考える必要があろう。まず、RMBSで典型的なのはやはり銀行勢。資本の厚い欧州勢(バークレイズ・ドイチェなど)はリスク資産としてある程度のエクスポージャーを持っている可能性が高い。次に、流動性リスクで被害を蒙るのはLBO絡みの融資がバランスシートに載っている投資銀行勢であろう。投資銀行としてはリーマンがもっとも大きなエクスポージャー(現状+パイプライン)を持っていると云われている。パイプラインの額は、むこう6ヶ月で凡そ500億ドルとのこと。他の投資銀行は、この半分から2/3程度の規模に留まる(ちなみに、今年前半のマーケット全体の額が3000億ドル規模であったことを考えると、かなりの減速である)。
したがって、奨励すべき投資戦略は、金融機関の株に関するプットの買い持ち戦略(隠れた損が実現する可能性を取る)か、新興国市場におけるvalue株(資源系企業株?)の買い(比較的高いリターンをもたらす数少ない資産のひとつ)といったところでしょうかね。引き続きクレジット市場に資金を置くなら、金融機関以外のコーポレートセクターの買いか、米国以外の地域で組成された証券化商品の買いかな。更に強気ならLBOのloanという選択肢も。。
うーーん。いまさらながらだけれど、やっぱり金融というのは業が深いなーー。ここまで書いてきて、ちと疲れたので、幾つか雑感を。
- リサーチやってたらわかるけど、米国での証券化商品市場は堅実な住宅ローン市場に支えられているといっても過言ではなかった。今だから云えるのかもしれないけれど。そもそも証券化商品の始まりはMBSであったわけだし、ここ数十年の住宅投資の安定成長から、その商品性にはある種の安心感があったのは否めないだろう。僕も個人的には、住宅価格の成長曲線をみてかなり安心したものだ。そのセクターがおかしくなったのだから、影響も大きいのは当然といえば当然。
- 一部に今回のマーケットの混乱の原因を、「Market to Modelで時価評価を行っていたものがMark to Marketにすると実際にはbidがないので価格が大幅下落」した為といった主張をしている人達もいるようで。損を時価評価(mark)の問題にすり替えようとしているようだけれど、そもそもその債券を売った業者がいるわけで、その人達はなんでbidを引いたか考えてみたら良いのではないかしらん。Market makerは理由もなくbidを引かないよ。
- 「下手なナンピン、スッカンピン」。同僚(というか上司)からの格言。ベアのファンドは年初からポジションを積み増しに来てたんだよね。。そして積んだポジションでレポして、更に買おうとしてた。。買い下がるのもいいけれど、担保価値減ってってるんだから、典型的なwrong way riskだよ。。ファンド立ち上げてから10ヶ月くらいしか経ってないのに。。。ホントこの格言にピッタリな人達でした。
- GMショック(03-05/2005)が懐かしい。あの頃はまだ過剰流動性がそれ程問題になっていなかったから、即日で20億ドル規模の流動性をsingle trancheに出せるとかメールが回ってたよなぁ。あの時はcorrelation shockでモデルに対する見直しが起きた面白い事例だったけれど、今回もキタナという感じ。やっぱりクレジット系のモデルはその基礎を統計分析に置いているだけに、金利・為替・株とは違って、独特やね。
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