金曜日, 10月 26, 2007

バブルの発生要因およびその特徴を探る

(時間が経ってしまったのですが、このトピックは先月の話です)

NY赴任に当たって、一番楽しみにしていた事の一つが遂に実現した!そうNYには東京とは比べ物にならないほど大きなクオンツ・ソサエティが存在し、常時面白いイベントを開催すると共に皆ネットワーキングをしているので是非僕も参加したいと思っていたのです。その一つがコロンビア大学のThe Fu Foundation School of Engineering and Applied Science(どこかで聞いたような名前ですね?!)の金融工学講座が主催しているFE Practitioners Seminarです。有名なDermanが主に仕切っているようで、今シーズンはこれまた有名なヘッジファンドBlack Rockのオフィスを借りて開催されています。

そして第一回目が驚く事なかれあのHJMモデルのJarrow先生の講演でした。もう8年前になってしまうけれど、初めて金利デリバティブのモデルを作るときに繰り返し読んだのが、HJMの論文だったんだよね。なんだかこの8年間の出来事を思い出して感慨深かったものの、その語り口に手応えを感じてちょっと嬉しかったり。論文を読んでいるだけだと非常に抽象的でまさしく数学的な論文なのだけれど、一流の数学者がそうであるように、Jarrow先生も直感と理論の意味づけと、その応用に非常に心を砕いて説明してくれていた。そして抜群のウィット。やっぱりこうでなくっちゃね。

ところで肝心の内容はというと、最近なにかと話題の『バブル』についてです。『バブル』発生のメカニズムについては、レジームスウィッチングの考え方を使ってモデルを作っていく手法がこれまで大勢を占めていたわけだけれど、今回のJarrow先生の理論はFinanceで使われる手法に軸足を置いている点で異なります。詳しくは論文*に譲るとして、ポイントは次の4点:
  • 完備市場であっても、非完備市場であっても所謂『バブル』は発生し得て、価格上昇をもたらす。
  • リターンの上限があらかじめ決まっている債券型の資産では、理論上『バブル』は発生し得ない。
  • 『バブル』には必ず有限時間内での寿命が存在し、その効果は消滅する。
  • 非完備市場では、何度も『バブル』が発生し得て、その発生時期は市場がリスク調整を行うタイミングと一致する。
  • デリバティブ市場の価格形成情報から、『バブル』そのものについての情報を抽出できる。
ここで、一連の結果を導出するために設定された自明でない仮定は唯一:"トレーダーにはあらかじめロスカット枠が設定されている"ということのみ。言い方を変えれば、例えそれが裁定取引であったとしてもある一定レベル以上の評価損失を抱えることはできない、ということ。これは現実に即した仮定であると同時にある種の裁定機会を放棄しているのと同じ意味であるわけだから、この仮定を置く事で『バブル』の発生が理論上可能になっているのがわかる。

まず注目すべきは債券型の資産(fixed income products)については、理論上『バブル』が発生し得ないということ。つまり、このタイプの資産価格はバブルに見えても実はバブルではなく、あくまで正常な価格形成の結果であるということで、一方的な価格下落は生じ得ない。これにはかなり驚いた!もちろんあくまで理論上の話なので、直ちにそれが市場に適用できるとは思わないもののこれだけ一般化された枠組みの中でこうした結論が得られるのにはやはり意味があるように感じる。まぁこの時に知り合ったCDOトレーダーはあんなのアカデミックな世界だけの話で、CDOマーケットは完全にバブってるよって言ってましたが(;´Д`)

次に注目すべきは『バブル』の発生と破裂についてのメカニズムがすっきり説明できるということ。『バブル』は市場がリスク調整を行う時(まさしく今!!)に発生し、その後必ず有限時間内に破裂する。数学的に言えば、『バブル』は同値マルチンゲール測度の交換時に発生し、0に各点収束する優マルチンゲールとして記述できる。経済的に言えば、よく知られているように『バブル』は資産価格の急上昇をもたらした後崩壊し、資産価格の急落をもって終焉する場合ももちろんあるものの、平均してみるとあたかも負の配当を資産価格から支払い続けるような効果をもたらす。

そして最後に注目すべき点は、デリバティブ市場の価格形成情報を使って『バブル』を観測できる可能性が示されたこと。具体的にはプット・コールパリティが成立する中で、コール価格にのみバブルが潜みうることを利用しようというもの(プットはリターンの上限が決まっているので、その価格はバブルに成り得ない)。これは正直凄い!もしかしたら将来はバブルのプライシングも夢ではないかもしれん。Jarrow先生がIn this context, there are lots of fun in derivative pricing!と言っていたのも納得できる。

簡単な応用として、不動産バブルについて考えてみよう。まず、不動産価格にはバブルが潜み得る。これは、少しの確率であっても不動産価格が青天井で上昇していくようなシナリオを描ければ良い。まさしく80年代の日本市場の姿であり、ここ最近の米国住宅市場であったわけですな。この場合にはリターンに上限がないので、上記理論によってバブルが潜み得ることになるド━(゜Д゜)━ン!!一方で、この期待(確率)が脆くも崩れ去るとたちまち不動産価格に上限が設定されてしまうので、一気にバブルが破裂することになる。例えば日本の場合には、総量規制で不動産向け融資を絞られてしまった結果、それまでの不動産価格の青天井シナリオの確率が減少すると共に、収益還元法の出現によってfixed income assetとしての性格が強調されるようになりバブルが一気に破裂したと理解できる。今後の研究としては、青天井である確率とバブルの大きさの関係なんかが解明されると面白いんだろうな。たぶん正の相関がある筈。

まだまだ実践的な理論にはなっていないものの、今後の発展が期待されますね(^ω^)

*R. Jarrow, P.Protter and K.Shimbo (2007), "Asset Price Bubbles in Incomplete Markets"

いよいよ冬の始まり

同僚と話していると、今年の秋は本当にニューヨークらしからぬ蒸し暑さでshameだとの事。そこまで言わなくてもいいとは思うものの、秋が一番綺麗な季節と聞いていたのでちょっと期待外れ。11月を目の前に最近はさすがに少しだけ寒くなってきました(55F/12C)。いよいよ冬の始まりかな。

金曜日, 10月 12, 2007

財務省動く

サブプライム問題をきっかけとしてクローズアップされた新たな金融システム危機については以前のエントリーでコメントしてきたわけだけれど、遂にその対策の第一報がWSJ紙上にて今日の夕刻明らかになった。以外と時間が掛った印象だけど、引き続きインターバンク市場が混乱するなかで内密に議論が進められてきていたとのこと(3週間前から)で納得してみたり。来週月曜日のCITIの四半期決算発表に合わせて対策が公表される予定とのことで、もちろんその発表も注意深く見ていかないとね。まったく個人的な憶測でしかないけれど、やはりこのまま対策なしにCITIの決算発表を向かえると市場の混乱が再発しかねないとの判断があったんだろうか。

ポイントは、1) 今回はFEDではなく財務省が仕組み作りに動いていることと、2) 別エンティティ(Master-Liquidity Enhancement Conduit, or M-LEC)を作ってこれを銀行団がサポートすることで信用力を確保することの2つ。

FEDではなく財務省が出てきたという事は、今回の対策はLTCM危機での緊急財政出動とは異なり長丁場のシステム作りに当局自身が動いたということを意味する。LTCM危機の時はその後業界団体であるISDAを中心とした活動によって、カウンターパーティリスクの管理方法が確立してきたわけだけれど、今回の金融システム危機(07年証券化危機とでも呼んだらいいのかしらん?)はシステム全体の問題として当局が強い問題意識を持っていることが伺える。それにしても強い当局とはまさにこうした動きができるもの。翻って今の日本の当局は果たしてこうした力を発揮できるかどうか。また後で、当局という概念については取り上げてみたい。

別エンティティを作ってこれを銀行団がサポートするというのは記事にもあるようにいかにもLTCM危機時の対応を思い起こさせるものの、もはや一行のクレジット単体では現状あるファンディングを維持できないわけだから適正な対応であろう。それにしてもCITI単体(7つの関連エンティティの合計)で現在$100bn、8月末でみると$400bnも資産が積まれていたというのだから驚きだ。これは統合前の大手都市銀行一行あたりの総資産規模に匹敵する。インターバンク市場はこの規模のファンディングに対してよくも耐えられたものだ。

引き続き注意深くウォッチングしていきたい。

Big Banks Push $100 Billion Plan To Avert Crunch

The Citigroup plan would create a "superconduit," a fund backed by some of the world's biggest banks that would issue short-term debt and serve as a buyer of assets currently held by SIVs affiliated with the participating banks.According to the people familiar with the plan, these assets include securities tied to U.S. mortgages as well as debt pools called collateralized debt obligations.Because the superconduit would be backed by the big banks themselves, it's expected this would reassure investors and make them more willing to buy its short-term debt, or commercial paper.SIVs are purposely kept off the balance sheets of the banks to which they are affiliated. One reason for this is that banks want to keep down the amount of assets on their balance sheets to reduce the amount of capital that regulations require them to keep.

Because SIVs are off the balance sheet, it is difficult for investors to size up the financial risks they pose. Off-balance-sheet liabilities played a major role in the 2001 collapse of Enron Corp., and the makers of accounting rules have generally sought to get affiliated entities back on the balance sheets of the companies creating them.

追記(10/16/2007):このトピックに関して日本の報道を見ていて面白い事に気がついた。あくまでネット版ではあるものの、読売はNY時間の土曜日の朝には既にこの件で記事を載せていたのだけれど、日経はなんとNY時間の月曜(もしくは日曜の深夜)になるまで一切触れられていなかった。これはもしかして日経のニューヨーク特派員は金曜日早帰りして気がつかなかったか??或いはそもそも特派員がいないのでは??日経のネット版には記者の名前が載っていないので確認しようがないものの、これはかなりまずい。経済専門紙が読売に先越されてどうすんのよ。。ちなみにアサヒはチェックしてません。アサヒられるかもしれないからね(;´Д`)そもそも何故にネット版で経済欄が『ビジネス』カテゴリーに分類されてしまっているのだろう。。。

土曜日, 10月 06, 2007

The 2007-08 Season (Carnegie Hall) has just started !!

今週の木曜日はニューヨークで楽しみにしていたことの一つ、『カーネギーホール』でのクラシックコンサートを鑑賞してきた。東京ではサントリーホールを中心に2-3ヶ月に一度はクラシックを聞きに行っていたのだけれど、こちらでは思いきってカーネギーホールとメトロポリタン・オペラの2007-08にかけてのシーズンチケットを購入してみた。それで今回はカーネギーホールのシーズン一発目というわけ。ただ、N饗のシーズンチケットを買った時もそうだったのだけれど、やはり値が張るので今回も最安値のチケット購入してみたらなんと見事に文字通り最高峰(1番後ろの席は1番高いところにある 右図参照)の席に決定ヽ(`Д´)ノウワァァァン 総数105段の階段を上って息もたえだえ最上階についてみるとやはり異様に高い。。1段25cmとしても105x25cm=26.25m、凡そ1階3.5mとしても26.25/3.5=7.5階の高さに二人でビビりつつ、若干沈鬱な気持ちになったり。しかしなんとコンサートが始まってみると、さすが世界最高峰のホールの一つだけあってサントリーホールの良い席で聞くのとほぼ同じクオリティの音で聞くことができたのには驚いた。たぶんホール自体がすり鉢状になっているからなのだろう。少しだけ早いベートーベンの第九に大満足(^ω^)

ちなみに左隣では女性二人組みがいちいち演奏に声を潜めて大はしゃぎ。確かに良い演奏だけどちょっとオーバーリアクションでは。。?と思っていたら前のおじさんは手を耳に当てて必死に音を拾おうとしてたり。バッチリ聞こえてるんだけどとなぁと思ったら、やはり相当耳の悪い方だったようで30分後には寝てしまってたり (;´Д`) と思ったら右隣ではスパイダーマンの育て親の老夫婦にそっくりのお年を召したカップルが中睦まじく静かに音楽に聞き入っていたり。なんだかとってもディープなファンに支えられているコンサートでした。
うーんそれにしてもこれからこのシーズンをこの人達と一緒に過ごすと思うとなんだか複雑( ´_ゝ`)

Lucerne Festival Orchestra, David Robertson as Conductor

Ludwig Van Beethoven, Symphony No. 9 in D Minor, Op. 125

This concert was performed without intermission, took about 1h 30min.

Lake Placid (Amtrackの旅)

忘れてしまわないうちに、夏休みを利用して行ったLake Placidについて書いておこう。何せ一年ぶりの長期休暇なので、マンハッタンを出てみることにした。今回のテーマは、『アメリカ版伊豆・箱根を探せ!!』。何を隠そう自他共に認める温泉好き・田舎好きの私は29歳になるまで自ら海外旅行に出かけたことはなく、20代最後の冬に奥さんとNYへ旅行に 行ったのと新婚旅行を除けば実は全ての休暇を国内しかもほぼ伊豆・箱根で過ごしている大の伊豆・箱根ファンである。なので、ニューヨークへ来てからも伊豆・箱根を疑似体験できるところがないとストレスが溜まってしまってしょうがない。というわけで、奥さんからの冷たい視線を感じつつも必死になって探した結果、 なんとすぐ近くニューヨーク州北部にHudson Valley(箱根)とAdirondack(伊豆)を発見した \(^∀^)/ うーんこれは実に素晴らしい。何せよくみるとどちらも山に囲まれた国立公園になっているのと同時に湖(芦名湖?一碧湖??)が点在しているので、まさしく 伊豆・箱根の雰囲気にぴったり。しかも、SPA(温泉)を売りにしているホテルが結構多い(有名なのはAdirondack Parkの入り口にあるSaratoga Spring)。

そこで、今回は天城をイメージしてAdirondack国立公園の真ん中あたりにあるLake Placidを試してみた⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン、、と簡単に書いたもののかなり遠くて片道5-6時間の電車の旅をする羽目に。さすがにアメリカはスケールがデカイ(;´Д`) ただ実際到着してみるとこれがまたかなり綺麗めの純白人仕様の湖畔の避暑地であることが判明(何せ3日間の滞在中にみたアジア人はわずかにカップル3組に止まってしまったわけで)。何はともあれ奥さんも満足げで良しと。

そして今回は遂にコースデビュー━━━━(゜∀゜)━━━━!!!! これまで打ちっぱなしには何度か行ったことがあったもののコースは初めてだー。9ホールではあったものの、抜けるような快晴と山の緑に囲まれてのゴルフはかなり楽しくてしばし二人で熱中。今度は冬にスノボに行きたいな。

ところで今更ではあるものの、最近国家間の情報戦に興味があるので「国家の罠」(佐藤 優)を読んでみた。何せ電車に片道6時間近く乗っているので本を読むしかない(´ー`)y-~~それにしてもこの本は勉強になった。対ロシア戦略および北方領土の日本側からの解釈・位置づけ、そして最近また話題になっている所謂国策捜査について平易に解説されているので日頃の勉強不足を補うことができた。肝心の情報戦については非常に為になる教訓が一つ:情報屋の世界では信用が第一であって、これを裏切った者は二度とその世界に再び受け入れられない、ということ。この線を守ることが、著者をして1年以上に及ぶ拘置所生活を決断させる一つの理由になったとある。金融で言うところの"My word is my bond"に通じる約束なのかなと感じた。或いは、リスクの伴う中でスピード感のある活動を支えるのはどの世界でも信頼できる仲間である、のであろう。

月曜日, 10月 01, 2007

ダウ平均 14,000ドル台回復

凡そ2ヶ月ぶりの14,000ドル台回復ということで。
ちょっと早すぎる気がするのだけど(´ー`)y-~~