木曜日, 11月 22, 2007

NYでの生活立ち上げ記録 ~ 年金 編

今日は数少ないアメリカの休日(Thanksgiving Day)で、お休み。お店もレストラン以外は基本的に営業していないので、家でのんびり。

日本でも今年話題になった年金問題だけれど、僕のように米国籍の企業に現地採用された場合、この問題は更にやっかいになる。ちょっとまとめておこう。

まず日本では年金は所謂3階建てになっているのが普通で、その1階部分については国民年金、2階部分については厚生年金、3階部分については企業型401k+Cash Balance Plan(所謂退職金制度)が用意されていた。日本の一部上場会社と比べても遜色なく満足していたのだけれど、赴任にあたりその全てを脱退してこなければならなかったヽ(`Д´)ノウワァァァン じゃあ米国ではどうなるのかというと、2005年に日米社会保障協定が締結されたので1階部分と2階部分の年金については掛け捨てはなくなったものの、将来はドル建てで米国社会保障制度から年金を受けることに。更には所謂3階部分はこちらの401k制度と企業毎の年金制度にとって代わられたので、これらについても将来はドル建てで受け取ることに(;´Д`) もう僕の年金は為替リスクは大きいし、ボロボロだと正直落ち込んでいたのだけれど、年度末のプラン見直し時に重大な事に気が付いた! 401kに関する税金の優遇措置である。

ニューヨークに転勤になる前からこちらの税金の高さは聞き及んでいたものの、実際に働き始めると驚いてしまった。日本では社宅制度などを使って、実効税率を15-17%に押さえていたのだけれど、なんとこちらでは連邦所得税+ニューヨーク州税+ニューヨーク市税+給与税(payroll tax = social security tax + medicare tax)で合計27.4%も税金を取られてしまうド━(゜Д゜)━ン!!ポイントはニューヨークは州税・市税ともに全米トップの税率を誇り、さらには給与税(日本でいうところの厚生年金保険料や健康保険料に相当)がそのうち7.65%を占めるということ。給与税の仕組みの詳細については、こちらの本(p.75)を参考にしてもらうとして、この数字には正直閉口してしまったいたヽ(´ー`)ノ

では、401kの税金優遇制度を使うとどうなるか?

そもそも、401kとは米国社会保障制度の一部であり、個人向けの年金制度(or 貯蓄奨励制度)である。ポイントは、1) 給与から専用口座に税金控除前に拠出できて、2) 運用期間中は運用益に税金を掛けられることはなく、3) 59.5歳以降に引き出し可能になり、4) 引き出し時に源泉所得税20%を課されるものの最終的には他の所得との合算で税金を課されることになる、ということ(59.5歳以前に引き出すと、ペナルティーで10%の税金を徴収される)。日米の制度設計に関する違いのポイントは、日本では企業が拠出しその拠出額は最大JPY46,000であるものの、米国ではまず個人がその給与から最大30%まで拠出し、その一部(うちの会社では最大6%)を会社が年度末に拠出する、ということ。

これらを考え会わせると、まず引き出し時の源泉所得税は運用期間にもよるが、仮に20年間運用すると考えると年間0.90%のコストにしかならず(ちなみに過去1世紀の米国での預金利率の平均は3%前後)、給与から最大30%を拠出すると概ね実行税率を30% x 27.4% = 8.22%削減できる━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!もう少し精密にシミュレーションをしてみると、税の累積効果があるので、実際には21%拠出することで、実行税率を20.2%にまで押さえられることがわかる。これはかなりデカイ!!なので、もちろん401kは基本的に貯蓄制度なわけだから拠出額を多くすればするほど毎月のキャッシュフローは減るわけだけれど、このリスクに耐えられさえすればこの制度を使った方が断然お得なわけ。日系企業の駐在員はニューヨークにいれば家賃補助も毎月USD3,000くらい出るみたいだし羨ましいなぁと思っていたのだけれど、これでようやく僕も現地採用になったメリットが享受できそう(^ω^)

追記 (12/22/2007):このエントリーを書いた後に、実際に401kプランをいじっていたら、重大な事実を見落としていた事に気が付いてしまった。何と401kの拠出金には法律で上限が設定されていた(;´Д`) 結局、節税効果はあるものの、3-5%程度に圧縮さてしまうことに。やはり世の中うまくできてます。

土曜日, 11月 10, 2007

証券化商品の格付けについて考える

(これも9月に入稿したので、ちょっと話題が古いですね。すみません。)

最近物議を醸している証券化商品(CDO,RMBS等)の格付けについて取り上げてみたい。これはデフォルト確率の推定に関わるモデルの問題に関連していて、クオンツの立場から考えても興味深い。

まずは、Moody's president Brian Clarksonのぶっちゃけトークから引用してみよう:
" We're rating with the goal that if you purchased all triple-As, they would all perform the same. Now of course they don't. Some get downgraded, some get paid off. "But what we're doing is we're actually rating to a target. We're targeting everything to be money good at the end with very, very little variability at the triple-A level," he said. Inherent in structured finance, however, are rules that govern what can and cannot be done -- even moves to save deals that break down, whereas a company can sell assets or otherwise reduce debt to stave off problems. "There is little you can do once things start to go bad," Clarkson said. "Structured finance ratings tend to be more stable over a longer period of time than a fundamental rating. But when they actually move, they move much quicker." (NY Times)
要は、昨今の格付けの急激な変化を認めた上で、やんわり企業の場合に期待される自浄努力(収益が悪化すればそれなりにリストラを行って財務体質の改善を図る等)が証券化商品にはあり得ないことなどを挙げて、その責任をストラクチャーの硬直性に転嫁してしまおうとしている。しかし、さすがにこれには無理があろうというもの(#`Д´)。これではせっかく最新の金融技術を使って、追加コストを極力抑えながら経済全体のリスク許容度を最大限利用しようとする証券化商品の意義(言い方を換えれば、リスクを幅広く投資家へ移転することによって資金調達を容易にするスキームの意義)が無くなってしまう。

それに、今回の件は直接金融の信用創造を阻害してしまったという意味で、新しいタイプの信用収縮と言えそう。

では実際に何が問題であったのだろうか。そもそも証券化商品の格付けはbankruptcy remoteを保証するスキームやコミングリング・リスクの評価を終えてオリジネーターとサービサー絡みのリスクを分離した後は、対象資産プールの損失分布(or 償還の蓋然性)を推定することに集約される。もちろん格付け会社は細心の注意を払って損失分布を推定し、特に高格付けを付与する場合にはデフォルト確率(PD)にストレスを掛けて念には念を入れている。ただ、僕の見立てでは今回問題になったのはこうした損失分布を推定する際に使われる肝心のストレス倍率ではなかったのかと。。

最近の急激な格下げで注目を集めている中小企業のCBOオール・ジャパンを例にとって、軽く試算してみる。デフォルト確率としては、S&Pの中小企業クレジット・モデルによる予想貸倒率(年率0.8%)を仮定してみよう(ちなみに、これはS&Pが当該当CBOに予備格付けを付与した時点でのS&Pの「ベース・デフォルト率」の1.7倍程度 (source: FISCO))。仮に信頼区間を68%(1標準偏差)で計算すると必要となるストレスPD値および倍率は次のようになる:

Gaussian copula w/ asset correlation 15% => 2.169% (x2.77)
Gaussian copula w/ asset correlation 30% => 4.063% (x5.07)

Student-t copula w/ asset correlation 30% => 7.798% (x9.74)

これらの数字はS&Pが発表している「中小企業CLO・CBOの格付け手法 - 中小企業クレジット・モデルを活用した分析手法を中心に」に記されているAAA格付けに用いるストレス倍率(5-8倍)とちょうど同水準である。一方で、ボラティリティのボラティリティが15%だとして計算すると、信頼区間はちょうど75%(1.15標準偏差)となる。この数字を使ってもう一度同じ計算をしてみると:

Gaussian copula w/ asset correlation 15% => 2.637% (x3.29)
Gaussian copula w/ asset correlation 30% => 5.172% (x6.46)

Student-t copula w/ asset correlation 15% => 7.091% (x8.86)
Student-t copula w/ asset correlation 30% => 9.441% (x11.8)

となり、S&Pが仮定するストレス倍率を30%-50%上回る結果となってしまう。更には直近6ヶ月のデフォルト率(年率4.7%=ベースデフォルト率の10倍!!)も十分予測の範囲内に収まることがわかる。したがって、ストレス倍率 5-8倍はちょっと低いのではないかと思うわけで。そもそも、この数字の根拠も曖昧だし(誰か知っていたら教えて下さい!)。9/11時点での格付け変更がどの程度のストレス倍率を仮定しているのか発表されていないものの、上記程度のストレスは仮定しておいて欲しいもの(ちなみに、8/28の関連プレスリリースはこちら)。もちろんこれは日本の事例であって、欧米での基準がどうなっているかを精査する必要があるがストレス倍率の議論はもっとオープンになされていいのではないかと思う。

結局のところ、証券化商品にありがちな高格付け・ハイイールド商品のカラクリはこうしたボラティリティに関するコールオプションが格付け時にゼロ評価されてきた為に起こっていた裁定機会であった可能性が高い。もちろん本来あるはずのオプション価値はハイイールド或いは業者の手数料として相応に落ちている訳だから、投資家としても文句はいいづらいところではある。逆に現在は理論的な根拠が薄いままスイングが逆方向へ行き過ぎている可能性が高いので、絶好の買い場であろう(新しいストレス倍率の水準は要チェック)。一旦下げた後は格付けが上がっていくフェーズに入っていくのではないか。市場へのインプリケーションとしては、格付けとスプレッドが密接に関連している市場慣行上、格付け方法を丹念に調べていけばレラティブバリューの機会を捉えることができよう。もっとも最近の価格下落率を見ると、レラティブバリュー云々の議論をする気が失せてしまうのも十分納得できるわけで、反論は甘んじて受けましょう。

金曜日, 11月 02, 2007

まるごとベートーベン

今回のカーネギーホールでは僕の好きなピアノ、しかもベートーベンを聞いてきた。しかも席は最前列!!前回の反省を踏まえて前の方の席を予約したらなんと今度は中央最前列になってしまったわけで。ただあまりにも前過ぎてせっかくのアンドラーシュのタッチがまったく見えなかった(;´Д`) まぁ十分演奏者の息遣いと最高の音を堪能できたので良しとしましょう。ちなみに、この公演では珍しくアンコールに答えてくれて20分以上も追加で彼の演奏を聞くことができてしまった。その心意気と素晴らしい演奏に拍手!

ANDRAS SCHIFF (アンドラーシュ・シフ), Piano

Ludwig Van Beethoven,
Sonata No.5 in C Monor, Op. 10, No. 1
Sonata No.6 in F Major, Op. 10, No. 2
Sonata No.7 in D Major, Op. 10, No.3
Sonata No.8 in C Minor, Op. 13, "Pathetique"